小包中納言物語

2Eギフテッドな蟲愛づる娘のホームエデュケーション

理想の数学先取り学習教材を求めて (3)

前回の記事を書いた段階ではまだ迷いながらの実験途上でしたが、その後も娘と試行錯誤を重ね、Twitterで情報を頂いたりするうちに、比較的ベターな数学の先取り学習教材もだいぶ絞られてきました。以下、これまでの記事と重複する部分も折り込みつつ、現在の到達点を記録しておきます。

 

 

小学校算数

小学校検定教科書+Eテレ

書店やネットなどで算数の教材は星の数ほど売られていますが、特に注意したい「割合」や「速さ」の単元で「くもわ」や「はじき」を使ってたり、使わないまでも暗に誘導したり、おすすめできないものが多いです。市販の教材を使うより、まずは学校の教科書に取り組むことをおすすめします。


唯一、楽しめる上に理解の助けにもなる教材が、Eテレの「さんすう刑事ゼロ」です。ネットで再放送を見ることができます。主演はモロ師岡です。

www.nhk.or.jp

中学受験で難関校を目指場合も、数学の先取りをしたければ塾の宿題に加えてさらに教材を求める必要性は「ゼロ」でしょう。

 

要注意なのが「教科書ガイド」です。検定教科書は、表向き学習指導要領に反したことは書けないのですが、教師用指導書など教科書出版社が検定外で発行している資料には、「掛け算には順序がある」どころか「足し算にも順序がある」などと説明しているものもありますので、検定教科書の本文と問題を一通り6年生までサラッと終わらせるのが理想でしょう。算数にはこだわりすぎないことです。

なお学年が上の検定教科書は、広島教科書販売のネットショップで購入できます。

hirokyou.jp

親が読むべき副読本

とはいえ、検定教科書にも変な箇所は存在します。特にひどいなと感じたのは「割合」と「速さ」の単元です。〈速さ〉〈道のり〉〈時間〉の三者の関係など、普通に考えれば公式を覚える必要などないのですが、ご丁寧に

  1. 〈速さ〉=〈道のり〉÷〈時間〉
  2. 〈時間〉=〈道のり〉÷〈速さ〉
  3. 〈道のり〉=〈時間〉×〈速さ〉

などと3種類の公式を別々のものとして暗記させようとするような、執筆者の知性の限界を露呈しているとしか思えない記述が見受けられます。割合に関してはもっと深刻で、そもそも執筆者もどう教えていいのか苦悩している様子が伺えて、読んでるこちらがいたたまれなくなってきます。

なので、ここは親自身が効果的な教授法を調べて、家庭で教えるしかありません。その際に参考になるのが以下の2冊です。

学力低下をどう克服するか―子どもの目線から考える

学力低下をどう克服するか―子どもの目線から考える

 こちらは対照群を用意して客観的に効果を測定している、教育学としては珍しいエビデンスに基づく方法論です。「くもわの公式」の代わりに、「割合モデル」という図を使ってイメージする方法や、子どもが実生活で知らず知らずに家に身に着けている「インフォーマルな(数の)知識」を活用した教え方などが、実証的に提案されています。

お母さんは勉強を教えないで―子どもの学習にいちばん大切なこと

お母さんは勉強を教えないで―子どもの学習にいちばん大切なこと

 タイトル詐欺です(笑)
「はじきの公式」を使わないとはどういうことかなど、副題の文字どおり「子どもの学習にいちばん大切なこと」が体験的に述べられています。

数学

体系数学

中学の検定教科書は、生徒に考えさせる前に先に答えを示してしまったり、登場人物が妙ちきりんな意見を言い出してきたりして、子どもが混乱する恐れがあります。問題解決型の教材のつもりなのか知りませんが、かえって問題です。

今どきの検定教科書はオールカラーで、ゆるキャラや少年少女が登場して、一昔前の進研ゼミよりも華やか、というより視覚的にゴチャゴチャしていて気が散って集中できない、と娘が訴えてきました。

そこで、黒・赤・青の三色刷りの『体系数学』(数研出版)を試し読みさせたところ、いたく気に入ったようで、一口に視覚映像認知優位型といっても、カラフルであればよいという訳でもないのだな、とまた一つ勉強になりました。

 

せっかく先取りするのですから、中高一貫のカリキュラムに再編成された順序で学んだほうが効率的でもあります。中高一貫向けの数学教科書としては、我々理系の人間にはあの30講シリーズでおなじみの志賀浩二先生による『中高一貫数学コース』(岩波書店)も捨てがたいのですが、そちらは読んで愉しむ副読本に採用することにして、我が家では最も広く使われている『体系数学』を使っています。これらは検定教科書のような邪魔も入らず、記述も冗長ではありません。教科書の問題だけでは足りない場合には「基礎編」「発展編」の二段階の傍用問題集も用意されています。 

数学1 (中高一貫数学コース)

数学1 (中高一貫数学コース)

数学1をたのしむ (中高一貫数学コース)

数学1をたのしむ (中高一貫数学コース)

 体系数学のよいところとして、別冊の解答がそれなりに詳しいという点も挙げられます。数学の教科書にありがちな「(略)」とか「定義より明らか.」とか「証明は読者の課題とする.」などのような、我が子を千尋の谷底に突き落として這い上がってきた奴だけ育てるようなスタイルではありません。なので、「読んで、解いて、答え合わせして、修正する」というYTKSサイクルを回せる子であれば、ある程度は自習で取り組めることでしょう。親は隣りに座って、自分の勉強をしていればいいのです。質問されたときだけ一緒に考えて、親もわからなくてもTwitterの数学クラスタに向けてツイートすれば、誰かが嬉々としてアドバイスをくれることでしょう。

 

三省堂・旧課程「高等学校の数学」シリーズ

 体系数学が終盤に差し掛かったときに、ぜひ併せて取り組みたいのが、『高等学校の基礎解析』『高等学校の微分積分』です。私が受験生の頃に理系クラスで流行っていて、天下りでない記述や独特な配列、身近で豊富な具体例から抽象させるスタイルが面白く、教科書卸売問屋に買いに行ったものです。残念ながら長らく絶版になっていましたが、復刊ドットコムでの得票数が評価されたのか、近年ちくま学芸文庫に所収されました。

高等学校の微分・積分 (ちくま学芸文庫)

高等学校の微分・積分 (ちくま学芸文庫)

高等学校の基礎解析 (ちくま学芸文庫)

高等学校の基礎解析 (ちくま学芸文庫)

 

現在では教えられなくなった「行列と一次変換」を収録している『代数・幾何』もぜひ復刊してほしいものです。ちなみに私は、いつか我が子と机を並べて数学を勉強する日が来ることを夢見て、大切に保管してありました。(こちらは現在、過去の貴重な教育学的資料として、東京大学のCoREFプロジェクトにて公開されています)

coref.u-tokyo.ac.jp

 

 ハイステージ数学

体系数学や志賀浩二でも物足りないという小中学生で、まだ大学の教科書に手を出すのも早いと感じるお子さんにお勧めなのが、『中高一貫ハイステージ数学』シリーズです。どのようなスタイルかというと、例えば幾何篇(上)は中学1年の一学期で基礎的な事項を学習し終えた後、第2部「ユークリッド幾何学の公理的構成」以降、次のような指針に基づいて学習していくことになります。

ヒルベルトによるユークリッド幾何学の公理的構成については詳しくは本文の中で述べるが(略)基本となる出発点の約束事をいくつか定めて,数学の1つの分野全体をそこから作り上げていく方法(略)「幾何学基礎論」とは、ヒルベルトが数学において公理的構成が重要であることを示すために,ユークリッド幾何学を1つの事例として公理的に構成してみせたものであり,その内容は19世紀末にゲッチンゲン大学で行われた講義が下地となっている。

理系出身の親御さんであれば、子どもが勉強している傍らで、改めて中学高校の数学を振り返ってみるつもりで取り組んでみるのも楽しいと思います。

なお、同書の著者である開成の林 正人先生は、中学・高校時代に数学を勉強することの意義について、こう述べています。

生きていくための色々な道具としての知識や能力を身につけ,人間性を磨き,その礎をつくる時期だと思う.そのためには,直接的に役立つ道具だけでなく,新しい知識や思考力を身につけるための“基礎体力”を培っておく必要がある.その最も典型的なそして伝統的な役割を担っている科目の1つが数学なのだと思う.中でも,幾何学,特にユークリッドの『原論』を祖とする平面幾何学とその論証は,数千年にわたって必須の学問として多くの人に勉強され続けてきた.現代は何に対してでも,目新しいもの・奇を衒ったものがもてはやされる時代だが,歴史的・伝統的な学問の方法は,やはり多くの人から有効と認められてその地位を築いてきたもののはずである

元文科次官や元府知事や現役の大学教官が「中退をなくすには数学必修を廃止するのがいい」とか「サインコサインタンジェント、どこで使うの?使ったためしがない」とか「オンラインサロンはすでに大学を超えている?大学と同じコストを払う人がいたら7つのコミュニティに入れる」と言ったとか言わなかったとか議論される時代にあって、親として我が子の行く末を案ずるとき、この開成中学・高校の先生の言葉は傾聴に値する学習観であると思います。

中高一貫 ハイステージ数学 幾何(上) (東進ブックス)

中高一貫 ハイステージ数学 幾何(上) (東進ブックス)

中高一貫 ハイステージ数学 代数(上) (東進ブックス)

中高一貫 ハイステージ数学 代数(上) (東進ブックス)

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insects.hateblo.jp

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