小包中納言物語 - AS Loves Insects -

2Eギフテッドな蟲愛づる娘のホームエデュケーション

迫り来る「木の下のハゲじじい」に最大級の警戒を

毎年、年末年始になるとTwitter上に「掛算の答えは合っているのにバツにされた」とする子どものテストの写真がアップされて食傷気味ですが、東北大の黒木玄先生 @genkuroki や積分定数さん @sekibunnteisuu らによる粘り強い啓蒙にもかかわらず、一向に収まる気配がありません。

それどころか、「足し算にも順序がある」から「等分除・包含除」「さくらんぼ算」「わの前ののの前!」に至ってはもはや何を言ってるのかさっぱり理解不能です。

 

 

幸か不幸か我が家の場合、娘が小2で掛算順序説を習い始めた頃から不登校を繰り返しているので、そこまで脳みそが汚染されずに今まで来ています。

 

ところが、少しでも家庭学習の足しにと契約しているスマイルゼミで、速さを求める問題を、あの悪名高い「みはじ」の図で指導されるという由々しき事態が発生しました。

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とはいえ、そこは蟲愛づる娘。おのれの信じる価値観は曲げようとはしません。娘が自分なりに考えた解法は次のとおりです。

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みはじ図がなぜダメか

「みはじ図」「きはじ図」は、「道のり(距離)」「時間」「速さ」を同列に扱い、

道のり=速さ×時間

速さ=道のり÷時間

時間=道のり÷速さ

という3つの公式を覚えなくても、一つの図を覚えるだけで済むので便利

であるとして流布されています。

 

しかし、そもそも「速さ」という量は「道のり」や「時間」とは同列に並べられない概念です。

 

「道のり」と「時間」は、たとえ原始人でも、巻き尺や日時計などの測定器具で基準を決めさえすれば、客観的に測定値を決めることが可能な量です。

 

一方、単独の移動物体の「速さ」を、他との比較なしに求めるには、「道のり」と「時間」という直接観測できる数値をもとに、「比」や「割合」として計算して初めて導出される量です。

あるいは、「速さ」を直接測定する器具としては、スピードメーターやスピードガンの発明を待たなければなりません。その数学的背景には「比」の極限である「微分」の概念があります。*1

 

つまり、単独の移動物体の「速さ」は、分数や比あるいは割合の概念が基礎にあって初めて導出できるという意味において、「道のり」や「時間」よりも一段階、間接的で、重要な量なのです。(ただし、導出において間接的だからといって、概念として難解かというと、そうでもない。)*2

 

したがって、「み」と「は」と「じ」を同列に扱わず、定義に従って、

 「速さ」=「道のり」/「時間」

だけ教えて後は変形すればいいだけなのでは、と思ってしまいます。

 

なお、生徒によっては、小5で「割合」を習ったときには抽象的でイメージできなかったけど、小6で「速さ」という具体的な対象を扱うようになってようやく理解できるようになった、という事例もあるようです。ですから、あまり「割合」に固執して「くもわ」を徹底的に繰り返しドリルで叩き込むのも、算数嫌いを誘発するという弊害が懸念されます。*3

 

言うなれば、「速さ」の単元は、「比」と「割合」の応用例にして、後の「関数」や「微分積分」の基礎となる概念を学べる、絶好の教育機会なのです。

 

確かに、「速さ」と、その基礎となる「割合」の理解に深入りしなくても、カリスマ塾講師のテクニックにかかれば、あるいは中学受験を突破することも可能なのかもしれません。しかしながら、概念の理解をないがしろにしたまま表面上の点数だけ取りに行くテクニックだけ身につけてしまうと、中学・高校に進学してからの数学のみならず、「速度」や「水溶液の濃度」などで割合計算が頻出する理科においても、理解の大きな障壁となることでしょう。

 

実際、不幸にも小学校時代に「くもわ」や「きはじ」といった呪縛に掛けらてしまった生徒が、高校生になっても「モルグリコ」なる意味不明の呪文を唱え続けなければならない、といった痛ましい事案も耳にします。 

 

 

以上のような理由から、子どもが「速さ」の文章題が苦手だからといって、安易に

問題文の中から「道のり」と「速さ」と「時間」の数字を見つけ出して公式に当てはめればOK!

で済ませてしまうのは、あまりにも勿体ない話だと思います。

 

聞くところによると、「でも、どれが【は】でどれが【じ】だかわかりません」という生徒に対し、「【木の下のハゲじじい】と暗記しよう」という苦し紛れの指導法もあるとか。こうなるともはや新手のアカデミック・カルトです。*4

 

 

 

「掛算の順序」「包含除・等分除」「筆算の時は定規で線を引く」など数学の本質的理解にとって有害無益な教育的指導に拘泥して時間を浪費し、肝心の「割合」「速さ」の単元では「くもわ」「みはじ」で取り繕う……

これでは算数の教育として本末転倒であると言わざるを得ません。

 

なお、「速さ」の教授法と「比」や「割合」について、ハコフグこと積分定数さん  @sekibunnteisuu から有益なご指摘を頂きましたので、以下のとおりトゥギャらせて頂きました。 

togetter.com

 

他の教材はどうか

チャレンジタッチ

まず、タブレット教材に新規参入してきたベネッセの「チャレンジタッチ」の指導法をみてみましょう。

sho.benesse.co.jp

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「単位量あたり」という考えを強調しているあたり、将来的にも応用が効く、正攻法の教授法です。これなら、スマイルゼミの提示してきた「みはじ」を拒否して解答した娘の解法とも合致します。

 

さんすう刑事ゼロ

また、iPadにインストールしているアプリ「NHK for School」でも視聴可能な「さんすう刑事ゼロ」は、Eテレ好きの娘からもイチオシの番組です。ここでの「速さ」の単元である「時速35キロメートルの犯人をさがせ ~速さ~」の回も、動的・視覚的に理解しやすく構成されています。

www.nhk.or.jp

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刑事役のモロ師岡の渋い演技も見どころの一つで、昨今のEテレの他番組に負けず劣らず、無駄にクオリティの高いドラマに仕上がっています。他の単元を扱った回も大いに理解の助けとなりますので、ぜひ視聴してみて下さい。

 

安浪京子先生

AERA with Kids』(2017年 夏号)10頁~では、“「きょうこ先生」として多くの親子から絶大な支持を得ている”プロ家庭教師・安浪京子先生が算数の教え方のコツを伝授しています。

ここでも「割合」「速さ」は算数の「2大つまずき」ポイントであり、「割合」は「小学校算数最大の壁」(p.22)、「速さ」は「複雑さピカイチ」(p.28)とされています。そこで、速さの苦手意識を克服するための方策の一つとして、きはじ図と語呂合わせが提示されています。

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publications.asahi.com

 

最後に:スマイルゼミユーザーの心得

なお、我が家は現状、ホームエデュケーションという形態をとっており、学校での授業をうける機会がありませんので、チャレンジタッチとスマイルゼミの両方を受講しているというレアケースになります。

 

昨年、主治医から「旧称アスペルガー発達障害」と診断された際、娘のようなタイプの子にはタブレット教材での学習が適応であり、エビデンスもあると勧められました。すでにチャレンジタッチの受講を開始してはいたのですが、次に挙げる理由から、スマイルゼミも受講することに決めたのでした。

  1. チャレンジのようにイラストやキャラクターがノイジーでない。
  2. チャレンジは説明が詳しすぎ、問題の難易度も易しすぎて退屈だった。
  3. 昨年から登場した新しいタブレットの性能が優れていた。
  4. 成績レポート、連絡用のライン型アプリが使い易い。
  5. 講座をクリアすると遊べるゲームが実は知育アプリになっていて認知機能も高められる。

 

このように、スマイルゼミには期待していただけに、正直がっかりです。

この「みはじ図」の他にも、割合の単元では「くもわ」の公式を提示してくるので算数には難がありますが、それ以外の教科ではアニメーションを駆使したわかりやすい説明もありますので、視覚映像優位型の子どもにオススメな教材であることに変わりはありません。

smile-zemi.jp

 

スマイルゼミユーザーの保護者の皆さんには、NHK for School などを併用しつつ、 「木の下のハゲじじい」のような安易なその場しのぎの指導法には最大級の警戒を払って頂きたいものです。

 

末筆ながら、(株)ジャストシステムにおかれましては、益々ご清栄のこととお喜び申し上げますので、今後の改善の程、何卒宜しくお願い致します。

 

 

 

*1:この2段落は2017年9月19日に修正。なお原文は次の通りであった:一方、「速さ」は、こうした測定量をもとに、「比」や「割合」として計算で導出される量です。あるいは、「速さ」を直接測定するには、スピードメーターの発明を待たなければなりません。そのメカニズムには「比」の極限である「微分」の概念があります。

*2:2017年9月19日、修正。原文は:つまり、単独の移動物体の「速さ」は、分数や比あるいは割合の概念が基礎にあって初めて導出できるという意味において、「道のり」や「時間」よりも一段高度な概念なのです。

*3:同様の指摘は、稲荷誠『頭のいい子には中学受験をさせるな』にもあり。

*4:©大田俊寛得体の知れない「学」を僭称する人々にご用心 | 宗教学探究: 大田俊寛の研究室 Guest book | 127」。