小包中納言物語 - AS Loves Insects -

2Eギフテッドな蟲愛づる娘のホームエデュケーション

ホームスクールは「逃げてもいい」の先の出口戦略になり得るか

蟲愛づる娘の小学校は今年から夏休みが短縮され、8月31日を待たずに二学期が始まりました。ただ、昨年9月1日から起算した不登校生活もめでたく満一周年を迎え、おかげさまで親子共々、もはや何日に学校が始まろうともプレッシャーを感じることはなくなりました。

また今年は世間でも例年と雰囲気が異なり、昨年の鎌倉図書館に続けとばかりに、各所に「逃げてもいい」のメッセージが溢れていました。

www.nhk.or.jp

不登校になった娘を持つ身としても、こうした風潮は歓迎すべきことです。しかし一方で、「外野から”逃げてもいい”と呼びかけるのはいいが、その先の責任は誰が取るのか」という問題提起も散見されます。

至極ごもっともな意見です。我が家でも、とりあえず学校から逃げたあとの数ヶ月間、娘もママも行き場のない罪悪感で押しつぶされる毎日を過ごしていたので、「逃げた先のこと」の重要性は痛いほどわかります。

実際に困っている子どもや親が望んでいるのは、「逃げてもいい」の先の「出口戦略」なのかもしれません。

その一つのモデルケースとして、我が家は最終的に図書館を拠点にしたホームスクーリングという形態に落ち着きましたので、参考にして頂ければ幸いです。 

insects.hateblo.jp

 

ただ、ここでひとつ気になるのは、「ホームスクール」で検索すると、「法律上は問題の有る行為とみなされている」「日本では法律違反です」などとする意見もヒットしてしまうことです。これもまあ「Yahoo知恵袋」や「発言小町」における素人判断という時点でスルーしてもいいんですが、こうしたサイトがスマホ世代の情報源として一定の影響力をもっている以上、看過するわけにも行きません。

 

というわけで、「逃げてもいい」と呼びかけた側の「責任」として、ちょっと突っ込んで調べてみました。結論から申し上げると、「ホームスクールは違法なのか?」という問いに対する答えは「場合による」のですが、少なくとも不登校の逃げ場所として始めた場合に限って言えば、違法であるとする根拠は見当たりません

 

以下、どんな場合に違法になり、どんな場合には合法なるのか、私の調べた範囲の結果をシェアさせて頂きます。

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 (cc) 2009 Wiiii, File:Diet of Japan Kokkai 2009.jpg - Wikimedia Commons.

 

学校教育法

 「法律違反」であると主張する側は、多くの場合「学校教育法」を引き合いに出します。条文には何と書いてあるのか、ホームスクールに関連しそうな箇所を実際に見ていきましょう。(強調は著者による)

就学させる義務

  第二章 義務教育

第十六条  保護者(略)、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う

第十七条 保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。(略)

○2  保護者は、(略:子を中学校)に就学させる義務を負う

まず基本的な前提の確認ですが、義務教育の「義務」とは「保護者の義務」であることが 規定されています。子どもに義務はありません。では保護者がこの義務に従わなければどうなるのか。

第百四十四条 第十七条第一項又は第二項の義務の履行の督促を受けなお履行しない者は、十万円以下の罰金に処する。

罰金刑になります。恐らく「ホームスクールは法律違反」と主張する人はここを根拠にしているのでしょう。

しかし、よく条文を読んでみれば分かるように、これには二段階の条件が付いています。

第一に、就学義務を履行するように督促を受ける場合。第二に、その督促にも応じず、なおも就学義務を果たさない場合。この2つの条件を満たして初めて、処罰の対象になるというのです。

この点に言及せず、「ホームスクールは一律に法令違反」と主張するのであれば、それこそ正確さに欠ける発言だということになります。

義務の猶予又は免除

さらに、この「督促」も、就学させる義務を果たさないからといって、直ちに出されるものではありません。

第十八条 前条第一項又は第二項の規定によつて、保護者が就学させなければならない子(略)で、病弱、発育不完全その他やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、市町村の教育委員会は、文部科学大臣の定めるところにより、同条第一項又は第二項の義務を猶予又は免除することができる

発達障害にともなう学校への適応障害や、いじめによる深刻な心的外傷などは、この「病弱、発育不完全その他やむを得ない事由」の典型でしょう。少なくとも不登校の逃げ場所としてホームスクールを選択した場合、就学させる「義務を猶予又は免除」される余地が十分にあります。

 

参考までに判例データベースで検索してみると、実際に保護者が督促に応じずに学校教育法違反の罪で罰金刑に処せられた事件は、あることはありますが、「満十五歳に満たない少女を中学校に就学させないで、バーの女給として引き渡し、客に酒を酌ましめる等の行為をさせた事例」(福島家裁、昭和34年)など、いずれも不登校からのホームスクールとは無関係な判例でした。*1

 

教育機会確保法

 さらに、今年2月から画期的な法律が施行されました。教育機会確保法です。*2 立案当初は、不登校の子がフリースクールや家庭などで学ぶことも義務教育として認める内容だったようですが、最終的に基本理念や行政の基本指針を示すに留まる法律として成立しています。*3, *4 

 

ともあれ、この法律は、家庭などで学ぶ児童や保護者を、「就学させる義務の督促対象」から大きく転換して、初めて法的に「支援の対象」と規定しています。条文をみてみましょう。

(学校以外の場における学習活動の状況等の継続的な把握)
第十二条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う学習活動の状況、不登校児童生徒の心身の状況その他の不登校児童生徒の状況を継続的に把握するために必要な措置を講ずるものとする。

(学校以外の場における学習活動等を行う不登校児童生徒に対する支援)
十三条 国及び地方公共団体は、不登校児童生徒が学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性に鑑み、個々の不登校児童生徒の休養の必要性を踏まえ、当該不登校児童生徒の状況に応じた学習活動が行われることとなるよう、当該不登校児童生徒及びその保護者(略)に対する必要な情報の提供、助言その他の支援を行うために必要な措置を講ずるものとする。

 もちろん、第十二条が言うように、家庭での学習状況を、学校や役所に報告したり、把握してもらう必要はありそうです。ただ、こうして「休養の必要性」すなわち学校から「逃げてもいい」というメッセージが法律に盛り込まれたことは、早稲田大学の喜多明人教授の言葉を借りれば「学校でなければならない、という精神的呪縛からの解放」を意味します。

 13 条では、不登校の子どもに対して、学校外の学びの場に対する情報提供を行うだけでなく、すでに学校以外の多様な学びの場に学んでいる子どもや保護者に対しての学習支援や情報提供などを含む。そのこと自体が、これまで学校に行けない、行かない事だけで社会的なプレッシャーを受けて苦しんできた不登校の子どもやその保護者にとっては大いに救いとなると思われる。

 そのような意味での精神的な呪縛、つまり「学校でなければならない」という社会的な圧力、その精神的な呪縛からの解放は、⻑年現場で取り組んできた基本問題の一つであったが、どんなに実践を積み重ねても決して解決し得ない法制度上の問題であったといえる。

(略)残念ながら本法に反対してきた方々は、この法律によって不登校の子どもや保護者が追いつめられると主張してきたが、逆ではないかと考えられる。

 この法律の 13 条をしっかり読めば、「学校でなければならない」という呪縛から解放されていく一つの制度改革につながると理解できる。*5

この解釈に、私も大いに賛同できます。以前にも書いたとおり、われわれ親子が求めていたのも、まさにこの呪縛からの解放だったからです。

www.huffingtonpost.jp

 

 なお、法案成立とあわせて出された附帯決議には、この点がより明確に謳われています。これに照らせば、立法意図が児童保護者を追い詰めるもので無いことは明らかでしょう。

(略)全ての児童生徒に教育を受ける権利を保障する憲法のほか、教育基本法及び生存の確保を定める児童の権利に関する条約等の趣旨にのっとって、不登校の児童生徒やその保護者を追い詰めることのないよう配慮するとともに、児童生徒の意思を十分に尊重して支援が行われるよう配慮すること。

(略)不登校は学校生活その他の様々な要因によって生じるものであり、どの児童生徒にも起こり得るものであるとの視点に立って、不登校が当該児童生徒に起因するものと一般に受け取られないよう、また、不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮すること。

(略)例えば、いじめから身を守るために一定期間休むことを認めるなど、児童生徒の状況に応じた支援を行うこと。

(略)不登校児童生徒の環境や学習活動、支援などについての状況の把握、情報の共有に当たっては、家庭環境や学校生活におけるいじめ等の深刻な問題の把握に努めつつ、個人のプライバシーの保護に配慮して、原則として当該児童生徒や保護者の意思を尊重すること。*6

ちなみに、喜多博士を始め、この法律の専門家たちは「ホームエデュケーション」という用語を使っています。以後、このブログでもこの用語を使っていきます。

 

文部科学省の見解

 実は、教育機会確保法の施行から十年以上も前に、すでに文科省からは、事実上、不登校児童の家庭での学習を容認・支援する通知が出されていました。平成17年に出された通知では、「一定の要件を満たした上で,自宅において教育委員会,学校,学校外の公的機関又は民間事業者が提供するIT等を活用した学習活動を行った場合,校長は,指導要録上出席扱いとすること及びその成果を評価に反映することができる」としています。*7

 さらに、昨年9月には「不登校児童生徒への支援の在り方について」と題した通知が出され、再度「ICTを活用した学習支援など,多様な教育機会を確保する必要があること」を念押しするとともに、平成17年通知についても、「その際,不登校児童生徒の懸命の努力を学校として適切に判断すること」とまで踏み込んでいます。*8 

 ここで「指導要録」とは、一般には馴染みのない用語ですが、どうやら年度単位で児童個人の出席・学習評価などを学校に保管しておく記録のようです。したがって、ホームエデュケーションでの学習の成果が、そのまま通知表に反映されるわけではない点には注意が必要です。

 ともあれ、奇しくも蟲愛づる娘が不登校を開始したその月に、文科省からこのような通知が出されていたとは、私も最近まで知りませんでした。もっと評価されていい通知だと思います。

 

 

 さて、ここまで明らかになった以上親としても黙ってはいられません。二学期が始まるにあたって、早速この2通の通知をプリントアウトして学校に持参し、担任の先生と面談してきました。

 私としては、娘が家庭で毎日取り組んでいる「スマイルゼミ」「チャレンジタッチ」の学習記録を毎月提出するので、指導要録と、できれば通知表にも出席と学習評価を反映して頂ければ、娘もどんなにか励みになるだろう旨、お伝えしました。やはり先生も教育相談員の方も、この通知の存在を認識されてなかったようで、校長先生と対応を検討して下さることになりました。

 結果は後日、こちらでご報告致します。

 最後に、「学校に行くぐらいなら死んでしまいたい」と思っている子たちに、改めて申し上げます。逃げてもいいです。

  

 

References