AS Loves Insects - 小包中納言物語

蟲愛づるアスペルガー娘のパパとして生きる

修学旅行に行ってきました、家族で。

集団行動がそもそも無理な我が娘にも、修学旅行は平等にやってきました。

 

本来であれば、感覚過敏や不安による入眠障害などの理由を挙げて普通にスルーしてもよかったのですが、事前学習で「東京では見られない昆虫がいる」と知ってしまった以上、どうしても行きたくなってしまうのが蟲愛づる娘です。

 

考え抜いた末の落とし所として、同じ目的地に同じ日程で、家族旅行に行ってきました。
insects.hateblo.jp

 

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それも行き先は、パパが小学六年生だったときと同じ目的地。宿も目と鼻の先。

当時は修学旅行専用の臨時列車を国鉄が用意してくれて、全車貸切のボックスシートで騒ぎながら行ったものですが、今どきは学校前から団体バスという少々味気ない風情となっています。我が家も時代の趨勢に合わせ、乗り合い送迎バスつきの格安プランで宿泊することに決めました。

 

そもそもシーズンオフの平日ですから乗客もわれわれ家族ぐらいだろうとタカをくくっていたところ、蓋を開けてみたら高齢者となった団塊の世代で満員札止め。これがまた皆さん指定席なのに自分の席を忘れるわ守らないわで、お国訛りの運転手さんも再三のお説教。その度にドリフ大爆笑の観客のような笑い声が車内に響き渡るという、要介護度あふれる修学旅行気分を味わうことができました。

 

「そのイヤーマフ、パパにも貸してくれ」と言いたいところをぐっとこらえて数時間、宿泊先に到着して疲れを癒やしていると、遠き山に日は落ちて、辺りはあっという間に夕暮れに。

 

すると遠くから、フォークダンスで盛り上がる子どもたちの歓声が聞こえてきました。窓の向こうの湖畔にはキャンプファイアーの炎も見えます。

 

娘は押し入れに閉じこもってしまいました。

 

出発前は、一度ぐらいはクラスメイト御一行の宿泊先に顔を出させよう、などと考えてもいたのですが、この時点でそうした未練は捨て去りました。

 

しばらくして押し入れから出てきた娘の腕には、いつも一緒に添い寝しているダイオウイカのぬいぐるみが抱かれていました。

 

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そう、スヌーピーのライナスが毛布を肌身離さないように、あるいは Oxford Reading Tree の Kipper がテディベアを持ち歩くように、娘も決まったぬいぐるみが手元にあれば、入眠時の不安が緩和されます。

ブランケット症候群 - Wikipedia

 

ただ、娘の場合、それがダイオウイカなのです。夏休みに炎天下70分待ちの行列に耐えて深海展の売店で手に入れた「イカちゃん」が一緒でないと、不安で眠れないのです。

 

www.oricon.co.jp

 

これも、娘がクラスメイトと同部屋で宿泊するのを嫌がる大きな理由でした。枕を同心円状に付き合わせてガールズトークに花が咲くであろう女子部屋の夜に、ダイオウイカがあの目ヂカラで見つめてきたら、さすがに思春期の乙女たちもドン引きすることぐらい、娘も肌感覚で分かっています。

 

しかし今宵はそんな同調圧力とは無縁です。風に乗って流れてくるオクラホマミキサーも、マイムマイムも、全てダイオウイカがかき消してくれます。娘が自分で来ていたパーカーを器用にぬいぐるみに着せてあげて、初日の夜は安心して床につきました。

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飯を求めて三千米

私は常日頃、いわゆる合理的配慮に基づいて、娘の負担はなるべく軽減し、原則として要望は聞き入れるようにしています。精神論と根性論で育ってきた実家のきょうだいからは「甘やかしている」「ちゃんとしつけろ」と吊し上げをくらいますが、それでも、娘が自分の力で越えなくてはならない高いハードルが時として立ちはだかります。

 

二日目の昼食を計画していた湖畔のレストハウスは、臨時休業でした。しかもこんな奥地はコンビニも定食屋もなく、ホテルはどこもランチを出していないというのです。路線バスもしばらく来ません。

 

つまり食料を調達するには、湖の対岸までの片道3キロを徒歩で行くしかないのです。温泉街のあちこちから立ちのぼる硫黄臭に前日から打ちのめされていた娘には、標高の高さも相まって、森に囲まれた新鮮な空気などではなく、ただの大気汚染に思えたことでしょう。

 

大人の足ではなんてことない距離でも、娘にとっては未体験領域。出発する前から「ほんとに向こう岸まで歩いていけるの?」、少し歩き始めては「疲れた~」「脚が痛い~」と繰り返し始めたので、

「いけるの?じゃない、行くんだよ」

「はい今から疲れたとか痛いとか言っちゃダメ、禁止!」

と、いつになく厳しい要求を突きつけました。

 

こういう時、娘は黙ります。が、しばらく歩いていると、やはり珍しい虫が通りかかります。学校では昆虫博士で通っている娘ですら名前を知らない虫たちがたくさんいます。だんだん娘の足取りも軽くなってきました。

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するとついに、事前学習で調べた昆虫のなかでも一番のお目当てのミヤマカラスアゲハが目の前を横切りました。こうなると娘も走り出して追いかけます。国立公園にはどこに採取禁止区域があるか分からないので補虫網は持参しなかったにもかかわらず、やはり娘は自分の指に止まらせることに成功。すでに翅はボロボロだったものの、エメラルドグリーンの金属光沢がグラデーションとなって、高原の陽射しを反射しています。Wikipediaで見た通りの美しさでした。

 (残念ながら写真なし)

こうなるとさっきまでの不満や不安はどこかへ飛んでしまったのか、娘の大好きな尺取り虫などを次々に見つけながら、気がつけば対岸の茶屋まであっという間でした。

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ここで食べた鮎の塩焼きがまた格別で、炭火で炙っているので外はカリカリ、中はふっくら。味覚過敏で超偏食の娘も珍しく食欲旺盛、この旅一番のご馳走だったと振り返っています。

 

結局、往復6キロの道のりを踏破できたことは、自分の内に潜む「生きる力」を体感する貴重な経験になったようで、これ以降、娘の顔つきは幼稚園の頃のような明るさと逞しさを取り戻したように見えました。

 

運命の交差点

一生の思い出となる修学旅行の濃密な時間にくらべれば、家族旅行の2泊3日など、終わってみれば一瞬です。

 

最寄り駅からコミュニティ・バスで自宅に向かっていると、交差点の向こう側から観光バスの一団が右折してきました。よくみるとフロントグラスには娘のクラスの団体名表示号が見えます。こちらのバスも左折すると、ちょど小学校方面に向かう車列に挟まれて、しばし隊列走行。なんという天の配剤でしょうか。さながら娘の帰還を全学年で出迎えてくれているかのようなひとときでした。

 

「みんなと一緒に帰ってこれてよかったね!」と娘の顔を覗き込むと、父の予想に反して、明らかに表情が強張っていました。あとで聞いた所によると、「ゾッとしたけどちょっと嬉しかった」とのことでした。