小包中納言物語 - AS Loves Insects -

2Eギフテッドな蟲愛づる娘のホームエデュケーション

理想の数学先取り学習教材を求めて(1)

このところ、杉山登志郎氏の『発達障害のいま*1や松村暢隆氏の『本当の「才能」見つけて育てよう*2など、アスペルガー児童の教育に関係する本を読んでいます。いずれも、非常に参考になります。

さて、先日紹介した稲荷塾方式の先取り学習も順調に進んでいますので、そろそろ中学数学の先取り学習用教材を入手しようと思ってAmazon紀伊國屋などあれこれ見て回っています。ですが、以下の条件にぴったり合致する教材は見つけられませんでした。

数学の先取り学習教材に求める条件

「考え方重視」の教材

第一に、稲荷塾方式の目指すような「考え方重視」の教材であること。

最近のワークや参考書は、我々が学生だった時代には考えられないくらいカラフルで平易なレイアウトの教材があふれています。これなら、図解による視覚理解偏重の娘でも楽しんで取り組めそうです。

しかし、市販の教材は公式や要点の結果だけ天下り的にまとめてあるだけに見えました。これでは稲荷塾方式の方針に反します。稲荷氏は、「稲荷塾方式を家庭で実行するための具体的な方法」として、〈ある程度理解したら次に進む〉〈意味を理解しようとする姿勢を大事にする〉の2つを注意点として挙げ、次のように述べています。

(両者は互いに)反することを言うようですが、やりかたを教えるのではなく、意味を理解させようとする姿勢は重要です。*3

そもそも小学校算数の時点ですでに「理由が納得できない公式は使えない」と主張する娘の特性的に、意味を問う暇もなく単調な反復演習のみで「やり方」を身に着けさせる教材は受け入れられないでしょう。

「視覚映像優位型」の教材

第二に、「視覚映像優位型」の教材であること。

児童精神医学の第一人者である杉山登志郎氏は、言語による認知が巧みな人々を「聴覚言語優位型」、言語による認知機能に困難を抱える反面で視覚イメージによる把握・思考のほうが優位な人々を「視覚映像優位型」と呼んで区別しています。ここで「聴覚」と言っても必ずしも耳からの音声だけでなく、文字情報も含めた文章・言語一般を指していることに注意が必要です。杉山氏は、こうした児童への教育方法について、次のように警告します。*4

 一般的な知的に高い人間の場合は、言葉による概念や認知、さらに言葉を用いた思考が得意であり、学校もそのような子どもへの教育がおこなわれている。しかし、映像や視覚イメージ操作による認知のほうが得意なグループは、しばしば言語認知、文字の認知、言語による概念形成、言語による思考などが著しく苦手で時として欠落を抱える。(杉山2011、p.69)
(中略)
 語学や国語の教師は自身が聴覚優位の場合が多く、聴覚からの入力や記憶は得意である。よく「わからなかったら何回でも読んでみよう。そのうち分かるようになる」とはよく言われるところである。しかし、視覚優位の子どもは、何回読んでも、実はわからないままである。(杉山2011、p.72)

Amazonでは『語りかける中学数学』の評価が「考え方重視」の教材として高いようで、確かに我々の大学受験時代の「実況中継シリーズ」の中学生版といった新しい試みなのでしょう。また、志賀浩二先生の『中高一貫数学コース』は、試験のためではない本物の数学の楽しさ・豊さを意欲的な生徒たちに伝えようとする情熱に溢れており、親としても是非声に出して読ませたいシリーズです。*5(追記:他にも開成の先生による『中高一貫ハイステージ数学』シリーズもあります。こちらもガチです。数学好きな保護者にオススメ。)

しかし、こうした優れた教材も、文章そのままで理解可能な「聴覚言語優位型」の児童には最適でしょうが、医師からもタブレット教材を薦められるほどに「視覚映像優位型」特性の娘には敷居が高すぎるように思えます。これは進学校で評価の高い『体系数学』や、稲荷塾本家の『稲荷の独習数学』についても同様で、優れた教材ではありますが、こと我が娘の特性に限ってはネックがあります。

検定教科書+タブレット用アプリ

そこで注目したのが、「検定教科書+タブレット用アプリ」という組み合わせです。

近年では、市販の教材ばかりでなく、検定教科書もオールカラーで説明も丁寧です。結局、「考え方重視」のグラフィカルな教材としては、軒並み天下り的な市販の教材よりも、学校の教科書のほうが数段洗練されています。検定教科書は都内なら大久保の第一教科書で、ネットなら広島教販で購入可能です。

hirokyou.jp

しかも最近は教科書傍用のインタラクティブ教材としてiPadAndroidアプリが配布されていたりするんですね。例えば東京書籍ならシミュレーションアプリが1学年分1200円程度で入手できます。フリーの抜粋版もあります。

【東京書籍】教科書・教材 中学校 数学 アプリケーション


もちろん、所定の学年まで上がれば、スマイゼミやチャレンジタッチなどでも学習は可能なのでしょうが、数学だけ単科の先取り学習には対応してくれないようです。唯一、Z会が単科で先取り受講可能なようですが、結局は板書と口頭による授業動画だったりします。*6,*7

ただし、チャレンジ会員であれば「基礎力サプリ」や「関数サプリ」などの使い勝手のよいiPadアプリが学年に関係なく使えますので、こちらは併用可能です。

合格基礎力サプリ

合格基礎力サプリ

関数サプリ

関数サプリ

また、「教科書ワーク」シリーズ対応のスマホアプリ「どこでもワーク」も図形のシミュレーションを多く扱っているので、「考え方重視」+「視覚映像優位型」の条件を満たしています。こちらは、Android/iOSアプリ『さわってうごく数学「AQUA」』がベースになっているようです。このようなスマホタブレット・アプリが既存のタブレット教材市場に参入・競合していくと、今後アスペルガーを始めとする様々な発達障害、さらには各個人の発達凸凹の学習ニーズに合わせた教材が、続々とラインナップされていくのかもしれません。


こうした教材をベースにして、『中高一貫数学コース』や『稲荷の独習数学』などを参照していけば、より深い学びになるのではないかと期待しています。

なお、各段階での到達度チェックには「数学検定」を受けてみるのがいいかもしれません。単調な反復ドリルでなく、2時間以上にわたって良問をじっくり考え抜くという経験を早い段階から積み重ねられ、何より点数や学歴でなく「級」や「段位」を認定されるなかで、数学の楽しさを味わってくれればと願っています。

References

(WEBサイトは記事執筆時点が最終閲覧日)

*1:杉山登志郎発達障害のいま講談社現代新書2116、2011年。

*2:松村暢隆『本当の「才能」見つけて育てよう─子どもをダメにする英才教育ミネルヴァ書房、2008年。

*3:稲荷 誠『頭のいい子には中学受験をさせるな』(巻末資料)、メディアイランド、2013年。

*4:同様の指摘は松村2008にもあります:「授業ではふつう板書もしますが、多くの場合、口頭での説明、発問が中心となります。すると、A君のような、聞きながら作業をすることが苦手な生徒は、通所の授業ではついていくのがむずかしいのです。そのため、板書をするように心がけたり、プリントをつくるなどして、視覚にうったえるような授業をする必要があります」(p.70)。

*5:中高一貫セミナー | 適塾よこはま

*6:iPadでできること | 通信教育 中学1年生 高校受験コース | Z会| 机の上が、塾になる

*7:数学新系統講座 Program M | Z会 | 日々の学習から受験・資格まで、本物の学力を養成する教育サービスを提供。 Z会iPadハイブリッドコースに加えて、今年度からAsteriaという、無学年制の先取り学習システムもスタートしました。我が家でもお試し入会してみましたが、問題演習もタブレット教材としてのUIは洗練されておらず、基礎事項の解説は講師による聴覚優位型の授業をストリーミングするというもので、我が家での採用は見送りました。理念としては素晴らしいので今後に期待します。